新型コロナ感染拡大に伴い、さまざまな旅行、観光がパラダイム変換を求められ、誰もが模索しているなか、「SDGs推進型の修学旅行」が発生しています。ここにはいつまでたっても一局集中的大量移動、消費から抜け出せない観光業界の限界があります。持続可能な開発目標「SDGs」を修学旅行、それもこれまでと同様の団体形式で行うことに矛盾を感じるのは、私だけでしょうか?
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SDGsを観光業界視線でみるとどうなるのか?
持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)とは,2001年に策定されたミレニアム開発目標「MDGs」の後継として,2015年9月の国連サミットで採択された「2030年までに持続可能でよりよい世界をめざす国際目標」です。多くの国が同じ目標(かなりハードルの高い)に向けて行動するということは素晴らしいことです。
国内において自治体、企業、教育機関がSDGsを推奨する動きが目立つようになり、これを全く否定する気はありません。
17のゴールには“7.エネルギーをみんなに、そしてクリーンに”とか、“11.住み続けられるまちづくりを”、そして“12.つくる責任つかう責任”、“13.気候変動に具体的な対策を”などが取り上げられています。特にこの4つのゴールを意識してみると、団体旅行そのものの行為を抑制する必要があるはずです。
SDGsから団体旅行を見るとどうなるのか?
特定のエリアにおいて、解説員に従って歩き、体験するというプログラムは大昔から世界中に存在し、そこではSDGs同様のルールが厳守されています。いわゆるスタディーツアーというものです。入館・入場制限、動植物への配慮など厳格なものが多いと感じます。
しかし、そこへ到着するまでの団体旅行は大規模移動、大量消費の合理性のうえに成り立つもので、社員旅行、町内旅行、そして修学旅行が最たる例でした。都市部の小学校が一度に同じ日程、行程で総移動する“貸し切り修学旅行列車”が象徴的でした。
感染病防止の観点で多くの修学旅行が延期、中止している状況はその旅行そのものが多大なリスクのうえに成り立っていた証拠でもあります。ようするに「旅行スタイル」そのものに、構造的な無理があるわけです。現実的にはそれによって、地域はにぎわいを辛うじて生き残ってきたわけでもあります。
アジア人の日本訪問はそういった日本の旅行スタイルを一部導入(押し付けた?)したものであり、決して成熟した観光ではなかったと思います。過日の“観光公害”といった言葉もありました。
SDGsさえも団体旅行のネタになる?
SDGs推進型の修学旅行が散見できるようになってきました。団体旅行形式の移動が前提であり、そこで持続的な世界の課題を見つけるプログラムに参加しましょう…というものです。カヤックやラフティングを通じて水の大切さを学びましょうとか、バナナボートに乗ったりスノーケリングすることで、海の大切さがわかります…という手合いです。地域(過疎)の現状を教えてもらうために民泊に参加しましょうとか、著名な社寺をめぐって質の高い教育を受けましょうとか…ようするに何も変わっていないわけです。
団体旅行待ち合い場で集合して、炭酸ガス大量放出の大型バスを使い、観光旅館の大広間で同じ食事。学んだあとはテーマパークで集合写真。確かにコロナ感染予防対策として、現地では分散移動や宿泊は前提となりますが、現在の峠を越えたら元通りの修学旅行に戻るのでしょうか?いいえ、戻したい方々いるのです。
観光施設、旅館・ホテル、交通機関、プログラム提供者にとっては数年前から予約が確定し、シーズンも偏ることから人員増加にも対応できる…観光産業にとって修学旅行はドル箱だったのです。そもそも、そんなコンテンツをまとめて販売してきた旅行会社、容認してきた学校・保護者のニーズが根源です。
あまり大口をたたけないのも事実…
えらそうなことを書いている弊社自体も実際のところ、修学旅行で大きな利益を得てきました。GATTウルグアイラウンド、環境学習、総合学習(総合的な学習の時間)導入など、それぞれのたびに修学旅行商品を企画し、販売、受け入れもしてきました。しかしコロナ渦下のパラダイムシフトは、さすがに弊社でも新たな提案に切り替えなくてはなりません。正直なところ、旧来の修学旅行スタイルを、お勧めするわけにはまいりません。
ましや弊社においてもSDGsを強く意識する必要(SDGs以前より取り組んでいるわけですが)があります。拍車をかけるようにコロナ渦、これは旅行そのものを質の高いものに変化させる大きなチャンスだと考えています。
しかしながら、旧態依然とした観光業界はどこへ向かうのでしょうか?SDGsのロゴだけホームページに貼り付け、ピンバッジを付けた従業員を動画に映す、はたしてそれでヨロシイわけはありません。
真のSDGsを謳う修学旅行とは
真のSDGsを謳うことのできる修学旅行とは何かを模索すると、いくつかの条件が浮かんできます。
1)少人数での移動が前提
2)学ぶという意味では、訪問地、宿泊施設なども生徒が選ぶ
3)主体的な学びを優先できる
4)事故リスクを最小限にする
5)近所でもよい、または行かなくてもよい
GIGAスクール構想やDXが進むと、残念ながらバーチャルではありますが、これらは可能であり広がっていくべきだと感じています。決してお金を払って、全員同じ体験をしなくとも特別な体験はできるはずなので。むしろ都市部の自治体が、こういった受け入れをすることを望みます。
すでに始まっている新しい旅のカタチ
新しい旅のカタチというと「オンラインツアー」を想像する方も多いのですが、おそらくそんな程度のものではなくなっていくと感じています。
先日、修学旅行に造詣の深い知り合いから伺ったミッション系高校生の話。彼らは自己主張型(というかストレートなのだ)な旅の報告をパワーポイントではなく、スマホ動画でテレビレポーターのように報告しているということでした。BBCやCNNを見て育つとそうなるでしょう。キャスターの社会的な地位や、自らそれができる環境はうらやましい。タレント雛壇バラエティーばかりのどこかの国とは、緊張感が違います。
旅行会社や先生方・保護者はそんな意外と近い、未来の修学旅行を想像していただきたい。これまでのドル箱に固執するのではなく、きちんと子どもたちの未来を考えていただきたいと思います。
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