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地域食材の良さ、愉しみ、そして旅行者の苦しみ?

日本の伝統的な地域食材は、発酵食品、季節限定の山野草、それらのかけ合わせで、世界に類を見ないほど豊富だ。土地のものが長い時間をかけて育んだ美味しさを、観光客はかすめ取るように賞味する。あたりも外れもあるだろう、しかしそれが旅の醍醐味だ…いや、「だった」はずだった。

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観光資源調査という特殊な仕事…

2009年の観光資源調査、奈良のかその村実態調査という仕事を受け持った。1月間の間に連泊を含め、週の半分以上を奈良吉野路で過ごしたのだが、ホテルの質、歴史資産、サービス品質、料理、価格その他を調べてレポートにし、さらに提言を加えるというものだ。迎えるのは現地役所、観光事業者であり、良くも悪くも何かと配慮してくれる。

今みたいに個々がSNS発信して、都会においても各種情報を入手できない頃、重要であった。現在も稀にこういった依頼もある。ただ、この奈良吉野路調査に関しては酸いも甘いも「苦い経験」が残った。地域食材アメゴ、アメノウオ(アマゴ)の応酬だった。<写真:北山村>

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アマゴは好きだが嫌いになった

<写真:上北山村>アマゴ、イワナ、ウグイ(ウグイの鮒ずしなんか最高)など、内水面漁業の独特の旨さは良く知っている。ザザムシ(カワゲラ、トビケラほか)なんぞはエビカニに近く、結構食べれる。ゆえにザザムシを食べているアマゴが不味いわけがなく、個人的には好きな魚類だ。苔を食べているアユとはまた違う。

しかし連続した吉野路滞在は、うんざりするほどアマゴを食べ続けた。さすがに、アマゴに対する考え方も変わってしまった。アマゴはサツキマスの陸封型、関西、四国に分布する。天然物はそれこそめったに口には入らないが、養殖物でも水質とザザムシが良ければ、旨いはずなのに。

 

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高度経済成長の折に増えた養殖産業

アユで観光収入が得れたエリアと異なり、それを模倣したような養殖アマゴの渓流釣りは、その立地の厳しさからブームにはならなかった。現在でも吉野路のあちこちで養殖施設はあるが、ピンキリ…高単価の旅館、料亭などへの卸、キリ…ピンは管理釣り場などへ販売となっている。

では地元で出てくるアマゴは「ピン」のほうかというと、決してそうではない。アマゴの味がわかる方が減少し、トップシーズンに「落ちた」アマゴの冷凍保存ものだからだ。

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奈良吉野路のアメゴ、アメノウオ

山林が多く、流通が伴わないから渓流魚でタンパクを得たなんというのは大間違いである。もちろんイノシシなどのイノシシもいれば、鳥類もいる、山野草、穀物は長期保存できる食材も豊富だ。ちなみに三輪そうめんのOEMメーカーは寒暖差の激しい吉野路に多い。日照時間の短さが乾燥に向いているのだ。

では魚類は?忘れてない?紀ノ川水系の柿の葉寿司、熊野川水系のサンマ寿司。林業で木材を港に流した後、手ぶらで帰るやつがいますか?もちろん、加工、発酵させた食材を持って帰るのだ。もともとは林業者は花形職業で、高額所得者だった。考えようによっては、渓流魚は季節のいろどり的にとらえていたのかもしれない。

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アマゴレシピの少なさはなぜ?

実際調査して感じたことは、焼き物(ホウバ焼など含む)、昆布巻き、佃煮が精いっぱい。刺身はもちろん、煮物もできるし、こぶ締めもできるし、骨酒もできるだろう。なぜそうならないのか?アユやイワナと比べてもおかしな現象だ。

ここからは考察だが、アユは皇魚という特殊なポジションがある。くわしくはいずれ書くが、南方から来た鵜飼漁で獲ったアユは皇室に献上され続けている。イワナは民間信仰上、カミに近かった。ニホンオオカミに似ているかもしれない。奥深い深山に住む神々しい獲物だ。

 

アマゴは“川魚は泥臭い”?そしてその結果…

<写真:ニホンオオカミが出たので東吉野村>
アユでもイワナでもないアマゴは中間のサカナ。地域食材といって自慢するけど、養殖物で清潔ですとうたわれ、焼き物、昆布巻き、佃煮では腑に落ちない。思うに…“川魚は泥臭い”という先入観が干渉しているとみる。昔といっても昭和40年代後半ごろまでは、今でいう上流域は現在の中流域に近かった。とすれば、上下水道が未発展のころ“河原”は“厠”であった。

“川魚は泥臭い”というのは、中流域で田畑の金肥に使えない上流域に住む民の“衛生的な偏見(蔑視)”ではないかと。実際このころは鉱物資源の採掘で海外からの労働力は安定し、やがて林業輸入の自由化がやってくる。こういった同時発生の要因から“川魚は泥臭い”となったのか?

 

では、観光客にアマゴを提供する意味は?

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<写真:曽爾村>
ここは印象に残っている。夜アマゴ甘露煮を食べる。配置から見てメインに近い。山野草との組み合わせに工夫は感じられず、普通に真ん中だ。冷静に考えると、一般的なお刺身定食とポジションは同じなのだろう。

 

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さらにアマゴのホウバ焼が、後ほど出てきた。すでにアマゴは特別料理だ。誠意をもって提供されるのだが、連日アマゴ食べていると、舌がマヒしてくる。吉野路を連泊すると、こういうことは当たり前になってくる。何か、宗教的な意味でもあるのかと推測してしまう。“川魚は泥臭い”といわれる反発だろうか?

絶望的な宿もある。

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<写真:吉野町夕食>
少し整理しよう。
“川魚は泥臭い”というのは河原を厠として侮蔑してきた中流域の方々が、高度経済成長に伴い地域食材までも侮蔑してきた歴史によるものだ。実はこれが、内水面漁業に致命的な「偏見」になった。清流で住む魚はブラックバスであっても、やはりうまい。

奈良吉野路においてイワナはいない。神格化できるのはアマゴであった。ゆえにイワナの住む東海、北陸などと同じようにアマゴをあがめた。上流域と中流域との意識の違いが、極端なスピードで後者が勢力を増した。

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<写真:吉野町朝食>
同じホテルで夕朝、アマゴ。茶粥にハム。さすが、一年のうち10日未満で一年分稼ぐ花(サクラ)の吉野。ちょっとこう見ると、アマゴを応援してやりたい半面、何にも考えず保存用佃煮を並べているだけといった観光業界のずさんさも感じる。オフシーズンのこの夜、4室むこうの大学生合宿グループのカラオケがやかましい。こんな宿、連泊したらどうなることやら。

きちんと考えれば、開発できる。

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<写真:天川村>
アマゴの稚魚を海のエビと合わせて、薄い衣で天ぷらに。季節の山野草もまた良し、連続で食べて辟易とした筆者のアマゴの価値観がリセットされた。結局、固定観念から抜けることではないのか?このあたりはブーム化しているジビエ地域食材、すべてに思い当たるのではないか?

レシピの工夫次第で、豊富な日本の地域食材はまだまだ開発の余地がある。ちなみにこの宿はアウトトイレ、アウトバス。そういった利便性を一つ失くすと、案外、日本の山川草木が良く感じられる。お手洗いの一輪ざしも感慨深く楽しめる。この宿は、アマゴを食べに行ってもいいと今も思う。

 

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