現地に住んで日常的に自然を見るのと、都市部で暮らすものが野外に一時期滞在している場合、後者のほうが“超常現象”に敏感である…そう考えています。見慣れてないものを見るから…UFOなどもそうかもしれません。感受性とエビデンスは不可欠ですが。そしてそういった体験を、アウトドアガイドは上手くお話にするのです。
妖怪と遭遇…たとえば「ぬりかべ」
「おっさん二人で朝まで焚火の前で静かに飲んでいたんですよ…この川は朝もやが美しくて…。まぁ、それを見ようと。それが野鳥がさえずる前、信じられないスピードで起こったんです。」
「“風伝おろし”という自然現象はこのあたりでは有名で、川伝いから霧が立ち込め、まるで白竜のように山々にまとわりついて、やがて消えていくんです。しかし、その夜は違ったんです。まだ真夜中、焚火周辺に白い壁がふさがっているような感じ。焚火があるのに…」
「近づいてみると、まるで二人を包んでいるような。その壁を押すと弾力がある。というか固い。このままどうなるかわからないがじっとして居ようと二人でこわごわと納得し…やがて朝日が差すと、その壁は忽然と消えてしまった。」
「今思うとあれはきっとノブスマとかぬりかべという妖怪だったんだなと…二人で話しているんです。」
まるで矢追さん(笑)の木曜スペシャル的な語り口なのです。
しかし実在し、被害者が出た史実もある「ダル」
一旦経験談からはじめて、「いや、実は現実に被害者も出たケースもある」と深刻な顔で妖怪話は続くのです。
「ダルという妖怪はこのあたりに多かったらしい。昔から“ひだるがみ”と呼ばれ、山中で急激な空腹感に見舞われ行動ができなくなる。近年にも自衛官が演習中にダルに襲われ九死に一生の状態で救助されたと。」
「個人的な想像ですが、起伏が激しい山中、大地のくぼみにメタンやヘリウムなどの有害物質がたまり、そこへ踏み込んだがために化学反応としてそうなったのではないかと。」
まあ、もっともらしい科学的な解釈をつけるわけですね。このクソガイドは。しかし場は盛り上がり、油断するなよ、自然は舐めたらあきませんで、明日もいうこと聞いて楽しんでね。…そういう顛末です。
人里離れた美しさには怖さがついてくる
事実、妖怪ネタだけではなく筏師の暮らしや漁業、林業のシステム、歴史的な事実も語った後です。山間部、離島には悲しい過去があります。それゆえにその地をかみしめる、距離は境界でありアウトドアガイドはそれを伝えねばならないのです。
場合によっては数百万年前の地層の話も…突然切り出します。地質学。そうそう、この川には慶長地震(南海トラフ型)によって巨大な岩石が河原にあり「墜落岩」と呼ばれています。また大坂城の築城、江戸の大火で林業需要が高くなったとか。まあ、妖怪同様に総合的にお伝えしておきます。そのあとで妖怪話です。
あまりにリアルな一本ダタラ
事実このエリアは鉱物資源が豊富で、強制労働として大勢の人々が監禁されていました。おそらく中世から近代まで。国内での発信は少ないのですが、韓国からは一時期、やたら激しく非難されました。
「逃亡しないように片目をつぶし、地下での過酷な労働の末に片足が動かなくなった…もしやそれが一本ダタラでは…」なんて知ったふりをして語ったりします。タタラについては「もののけ姫でみたでしょ?」と言うておけば納得されるわけですが、いちおう地元の博物館でエビデンスは得ておくわけです。
このあたりの妖怪についてはリアルすぎるのですが、お客さんのタイプをより分けて話すことになります。まあ、かなり酔いが回っていないといけません。どこか妖怪話は、ピロートークのようになってきます。
多分まだまだ出くわすであろう妖怪
感受性とエビデンスが妖怪を作り出すのかもしれません。
妖怪に初めて出逢ったのは自殺の名所であった京都国際会議場の近く、深泥池。中学生のころ、バス釣りでキャンプ中に白骨死体が“見え”ました。この池は水中植物が繁殖し、自殺に向いていたと…中学生ぐらいから妖怪を意識するのもどうかと思いますが。感受性とエビデンスで、もっともらしい妖怪が生まれるのでしょう
さてコロナ渦下。各地のキャンプ場や駐車場は、都市部からの侵入を拒否しています。片側で観光産業として利を得ていただけに、困ってしまいます。
いや、一番困っているのは妖怪かも。長生きしてきたけど、新型コロナには感染したくないでしょうね。
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