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白土三平の死を弔ううえで

白土三平が令和3年10月に亡くなり、4日後に岡本鉄二も兄を追うように亡くなりました。案外「サバイバル」の評価が低く、「ゴルゴ13」ばかりが表に出ていたさいとうたかおの死に次いででした。メディアではほとんど取り扱われなかった白土三平の訃報について、お弔いの意味で短文を寄せます。

劇画という文化

白土三平,岡本鉄二,さいとうたかお

カムイ伝ほか…白土三平による劇画であり、この作品によって人生を刺激された方は多いでしょう。かくゆう私もその一人です。漫画とは一線を画する…つまりは手塚治虫が作った漫画の構造を踏襲しながら、そこにさらにリアリティーを込めた映画に近い描写とお考えください。ファンタジーはなくリアルを求めたのですね。

第一部、第二部、そして外伝と壮大なストーリーは江戸時代における様々な身分、群像を現代社会と照らし合わせて問いかける稀な作品です。また、自然、野生動物の細かな生態も。カムイ外伝のアニメが広く発信されたため、忍者マンガとして認識されている方も多いかもしれませんが、それは本編の100分の1程度のクローズアップ。未読の方はこの機会にぜひ読破していただきたいです。ハイボリュームでかなりの根性が必要ではありますが。

初期江戸時代講義の題材として「カムイ伝」

白土三平,岡本鉄二,さいとうたかお

テレビでおなじみの法政大学社会学部教授(現:女性初の法政大学総長)、田中優子は初期江戸時代講義の題材として「カムイ伝」を選びました。それは発展した図絵、活字表現が栄えた江戸時代において、現実的な庶民の暮らしについては残念ながらあまり描き切れておらず、それを伝える最良のテキストが劇画である「カムイ伝」であるということといいます。しかしそれは、白土三平の頭で再構築された江戸時代なのですが。

士農工商それ以外という階級差別

白土三平,岡本鉄二,さいとうたかお

主人公であるカムイ(非人<実は穢多>/忍び)、スダレ(非人)、正助(農民<下人の子>)、竜之進(下級武士の子)という三人の若者と彼らを取り巻く士農工商それ以外という階級差別によるやるせなく、かつ希望に満ち溢れた世界が展開されます。物語のなかには一揆、逃散、強訴…山の民、海の民、何よりも農業改革、流通・商品開発などのダイナミックな動きがスゴイのです。

よくもまあ、こういうオハナシを紡げたものである。いまだに何度も読み返しているのですね、わたし。さらに田中優子はカムイ伝の舞台が「岸和田藩ではないか?」と、問いかけるものだから、なおさら目が離せません。

日置藩と岸和田藩の共通項

白土三平,岡本鉄二,さいとうたかお

その上で本書は日置藩と岸和田藩の共通項を述べています。
(ここより「カムイ伝講義」引用)
また岸和田藩の年貢率は他に類を見ない高率で、八~九割だった。収穫率が高い良田だとはいえ重税に苦しめられ、108村が城下に集まって強訴したという。このような百姓の気概も共通している。
もう一つの共通点は綿作だ。岸和田藩の綿作1926年からはじまった。かなり早い出発である。十八世紀になると、藩のほとんどの村が綿作を行っていた。収穫された綿はそのまま、あるいは鍬綿(くわわた)として売却されたそうで、これも機織りの情景が描かれない花巻村と同じである。<中略>
そして十八世紀後半になっても、一揆や国訴を繰り返した。岸和田藩を含む和泉国の村々は綿作の発展で干鰯の導入も早く、鍬の改良やセンバコギの導入など、農業技術が進んでいた。これも正助の物語と共通している。(引用ここまで)

本当にそうだったのか?いつか白土三平にお会いして、お考えを伺いたと念じていたのですが、それももう叶いません。

いつまでも人生を刺激し続ける白土三平

白土三平,岡本鉄二,さいとうたかお

何冊も著書、関連書籍を読むのですが「カムイの食卓」というビジュアル本が大好きで、これを読んでキノコを採ったりウサギをさばいたりしてきました。さすがに夙流変移抜刀霞斬りとか飯綱落しは試せるわけがありませんでしたが、いまだに原作をじっくり読むと恐ろしく優れた技であるとゾッとします。

ただただ今は…心から敬意とともに謹んで哀悼の意を表し、ご冥福をお祈りします。ほんで、まだまだ、何度でも読みます。

 

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